ヨーロッパ生まれの音楽は日本人に聴きやすい?

writer : 西崎ゴウシ伝説
Calmera(カルメラ)

日本の音楽は面白い。
戦前はそれまで昔から伝わる長唄、民謡、軍歌などの延長にあるものが中心だったが、戦後になるとラジオやテレビやレコードの普及によって、アメリカから入ってきたジャズ・ラテン・ハワイアンや、それらをルーツとした楽曲を歌う日本人歌手が流行し始めた。
60~70年代になるとさらに一気にいろいろなものに影響され、徐々にメロディアスな要素が強くなり歌謡曲と呼ばれ始め、のちにJPOPと呼ばれ日本独自の音楽ジャンルになっていくが、60~70年代の日本音楽成長期において、フランスやイタリアの映画音楽や流行歌が、日本の音楽に与えた影響は大きい。


Lex Aliviado

50〜60年代のフランス・イタリア映画の楽曲が日本映画に与えた影響

2019年1月。映画音楽界の巨匠ミシェル・ルグランが亡くなった。
私は見に行けなかったのだが、昨年7月に来日して東京4日間8公演、名古屋2公演を元気に演奏して帰ったと聞いてから半年後の事だったので、あまりにショックが大きい。

ミシェル・ルグランの名前を一躍有名にしたのはなんと言ってもジャック・ドゥミ監督のミュージカル映画「シェルブールの雨傘(1964年)」だろう。
この映画は、普通のセリフが一切無く、全編において音楽と歌で構成された完全なミュージカルになっており、公開当時としてはとても珍しいことだったが、この映画の音楽全編を担当したルグランの曲たちがあまりに素晴らしく、世界中でヒットすることになる。
かくいう私もミュージカルが得意な方ではないが、後に再度ジャック・ドゥミと再タッグを組んだ「ロシュフォールの恋人たち(1967年)」など、ルグランの関わったミュージカル映画は、音楽アルバムを聴いているような気分で気持ちよく観る事が出来る。
近年で言えば、10年ほど前に瑛太、小栗旬、妻夫木聡、三浦春馬の4人がビートルズ風の格好で出演していた資生堂UNOのCMで「Di-gue-ding-ding」が使われていたので聴いたことある方も多いだろう。

恥ずかしながら作曲家の端くれでもある私の昔から尊敬する久石譲さん、大野雄二さん、小西康陽さんなど、日本を代表する作曲家の多くがルグランに影響を受けていることを公言している。
言わずもがな久石譲さんはジブリ映画や北野映画の、大野雄二さんはルパン三世や松田優作作品を中心とした70年代の日本の名映画の、世界観大きく構成し欠かせない存在で、今も映画やドラマ音楽の第一線で活躍している。

同じく私の尊敬する作曲家、吉俣良さんはNHK大河ドラマ「篤姫」「江~姫たちの戦国~」や、テレビドラマ「眠れる森」「Dr.コトー診療所」「プライド」「薔薇のない花屋」、映画「冷静と情熱のあいだ」などなど、今や日本のドラマや映画の音楽において欠かせない存在になっており、胸を締め付けるような切ないメロディを作らせると右に出るものはいない。
その吉俣良さんは自身のルーツとして、ルグランがフランスで活躍しはじめるのと時期同じくして隣のイタリアで活躍しはじめたイタリア映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネの名前を挙げている。
など、現在の日本の映画・ドラマの音楽を担い活躍している作曲家の多くが60~70年代のフランス・イタリアの映画音楽に影響を受けている。


Artificial Photography

JPOPや歌謡曲にも影響を与えた

ポップスシーンにおいてもフランスやイタリアの影響をたくさん見受けられる。
ルグランやモリコーネと同世代のフランスの作曲家セルジュ・ゲンスブール。
彼は相当の天才芸術家タイプというか破天荒なプロデューサーで、セルジュのプロデュースで60年代に日本でも「夢見るシャンソン人形」が大ヒットしたフランス・ギャルが1966年にリリースした「アニーとボンボン(Les sucettes)」という楽曲では、当時未成年だったフランス・ギャルにペロペロキャンディーが大好きな少女をテーマに歌わせ、ミュージックビデオでは棒状のキャンディーをペロペロ舐める映像を撮影しているが、セルジュの考えた本来のテーマは男性器を頬張る女性を比喩した表現で、後にフランスギャルも歌ってる当時全く知らずに歌ってたと言っている。
また、歌手・女優のジェーンバーキンと事実婚状態であったが、不倫関係にあった女優・歌手のブリジット・バルドーと「Je t’aime moi non Plus」というデュエット曲を作り、過激な性描写の歌声と共に喘ぎ声も収録しており、その喘ぎ声は実際に性行為を行って収録したとも言われている。
しかし、バルドーの当時の夫の怒りを恐れてリリースは延期になったのだが、今度はその曲を本妻のジェーンバーキンとのデュエットし、同じく今度はバーキンの喘ぎ声を収録してリリースし大ヒットしている。
また、バーキンとの間にできた娘シャルロット・ゲンズブールとのデュエット曲「レモン・インセスト」では、父と娘の近親相姦を思わせる過激な内容に、リリース当時にはかなりの物議を醸し出した。
今の時代だと鬼畜とも言われかねないアブない作曲家セルジュではあるが、彼のエロスやロリータ的表現も大きく日本の歌謡曲にも影響を与えている。

70年代の伝説のアイドル山口百恵の「青い果実」「ひと夏の経験」「ちっぽけな感傷」など初期作品には過激な表現の曲が多いが、純朴な少女が性的に過激な表現の歌詞を歌うというスタイルは間違いなく前述したフランスギャルに「アニーとボンボン」を歌わせたセルジュの影響が間違いなくあると私は考えている。

アメリカで生まれた音楽に独自の解釈を混ぜるという共通点

一体なぜ、フランスやイタリアなどのヨーロッパ音楽の影響が大きくなったか?
ジャズをはじめ世界中で「アメリカで生まれた音楽」がヒットする中、アメリカ人じゃない人間が、その「アメリカで生まれた音楽」に憧れて音楽を作る中で「あ、そうしちゃう??わかる、わかる!」という、いわば間接的立場から生み出される音楽にはどこか共感できるからだろう。
特にクラシックの盛んなヨーロッパにおいては、それまでクラシックでは使うことのなかった音選びやハーモニーに驚き、いろんな可能性が出てきて、クラシックの壮大な世界観にジャジーなハーモナイズやリズムを融合したものがフランスやイタリアの映画音楽の原型だし、また日本において演歌や民謡のメロウな部分とアメリカ音楽が混ざっていくうちに次第に、それらは奇しくも互いにどこか似通った雰囲気になっていったのだと思う。
アメリカ人の作る音楽を自分たちになりに解釈して自分たちのルーツも混ぜてという立場から生まれたもの同士として、ヨーロッパの音楽が、無意識に多くの日本人の耳に心地よく届きやすくなったのだろう。

Darius Soodmand

SNSで世界中の音楽が聴ける昨今、同じく日本の音楽が特にヨーロッパでうけてるのは、ヨーロッパ人にとっても同じように間接的な立場の日本人が作る音楽が耳馴染みが良いのだろう。
と同時に少しずつ変わってはきてはいるが、そこにアメリカ人の「俺たちが世界のNO.1」的な国民性もあって、アメリカでは、ジャズはこう、ブルースはこう、ファンクはこうと、ルーツのセオリーをいかに重んじているかが重要視されるので、なんらかの解釈が追加されたりフィルタを通過したものが、大ヒットしにくいというのも事実だし、逆に日本国内やヨーロッパにおいて、そのアメリカのルーツを重要視した曲はマニアックに聞こえすぎてポピュラリティを獲得しにくいのも事実なのも面白い。

音楽は現在進行形でどんどん新しいものが生まれているが、フランス音楽に影響を受けた日本人が作った曲を聴いたフランス人がそれに影響され、という現象もどんどん起きていくだろう。そして、それらにさらに影響を受けて….と世界中のいろんな矢印で同様のことも。
新たな才能がさらに10年、20年後にどんな音楽を生んでいくのかとても楽しみで仕方ない。

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