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CARTIER アートのような視覚効果に酔いしれる


時計はときおり、とてもTシャツ的だといったら過激すぎるだろうか。だが記号論としていえば、Tシャツと時計とはよく似ているのだ。服とはある意味、その人の趣味や嗜好性、所属から主義主張までを表現するためのもの。

たとえば、お気に入りのロックバンドをプリントしたTシャツを着れば、ロックが趣味なのだとわかってもらえるのだ。ブランドロゴの格で自分のステイタスを表そうとする人もあれば、社会的なスローガンをプリントしてアピールする人もいる。

その人が属する社会や生き方など、Tシャツでさまざまなことが推し量れてしまう。ファッションの嗜好は遠目でも見てとれるが、時計はぐっと近づかなければ何をつけているかわからない。

だがたいていの場合、それは着ている服以上におしゃべりで、その人のライフスタイルをよく物語る。どんなブランドのどんな時計か近づかなければわからないので、それは不特定多数に向けたものではなく、近しい親密な人への静かなアピールといえるのかもしれない。

いちいち口にしなくても、それを目にした人が想像し、気づいてくれるのだから、時計は大人のコミュニケーション術として有効だ。

カルティエの「イプノーズ」は、端正なローマ数字、ブルースティールの針、クラシックなギョーシェ彫りの文字盤など、ひと目でカルティエとわかるデザインコードが巧みにあしらわれている。イプノーズとは催眠、恍惚、陶酔を表すフランス語。

その名の通り、ケースのフォルムが不思議な渦を巻くようになっていて、まるでトリックアートをながめているかのような甘い幻惑を感じさせる。熟練した手仕事と3D CADのデジタルワークをミックスした、極めてコンテンポラリーな造形が見事だ。

込み入った説明をしなくとも、ただひと目で「自分はカルティエに属する」と伝えてくれる時計。そしてカルティエに属することの恍惚をも味わわせてくれる時計。イプノーズは物静かだが、ときに驚くほど雄弁に主張をしてみせる。

イプノーズ SM

果てしなく続く渦のようなフォルム。この連続性を強調するため、リューズはケース背後に隠されている。クォーツ。18KPGケース+ダイヤモンド。ケースサイズ30×26.2mm。日常生活防水。アリゲーターストラップ。286万2000円。カルティエ カスタマーサービスセンター問0120-301-7

Text _KEIKO HOMMA.
Photographs_HISASHI WADANO.

2016年11月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)

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