暑い夏にボサノヴァを聴いて爽快に


sergio souza

writer : 西崎ゴウシ伝説
Calmera(カルメラ)

2019年7月。ブラジルの歌手・ギタリストのジョアン・ジルベルトが他界した。
1950年代後半〜1960年代にかけて作曲家アントニオ・カルロス・ジョビンらと共に、ボサノヴァを作り一大ムーブメントを起こした創設者であり、「ボサノヴァの父」「ボサノヴァの神」などと呼ばれている。

そもそもBossa Novaはポルトガル語で「新しい感覚」という意味で、それまでブラジルの伝統音楽であったサンバに、同時期にアメリカで流行していたジャズの要素などの「新しい解釈」を交えて生まれた音楽なのだ。
1950年代に存在していたそれまでのサンバとは違った「新しいサンバ」である。
日本に置き換えると冠二郎氏が演歌にあらゆるロックやポップスの要素を取り入れ「ネオ演歌」と名付けて活動しているのと近いかもしれない。

アップテンポで高揚感を煽る曲調のものが多いサンバに比べて、ボサノヴァには落ち着いた曲調のものも多く、正確にいうと全く違うので語弊が生まれるかもしれないが乱暴に説明すると「ゆっくりなサンバ」と思えば、あながち遠くない所にたどり着くだろう。

1950年代も終わる頃、バチーダというサンバのリズムをギター1本で刻みながらささやく様に歌うジョアンに惚れこんだ作曲家アントニオ・カルロス・ジョビンは、自身の作曲した「想い溢れて」という楽曲をジョアンに提供する。諸説あるが、これが世界で最初のボサノヴァの楽曲とされている。
それまでの古典的なサンバにうんざりし始めていた若者が一気に飛びつき、一大ブームメントとなった。

時期を同じくして、ブラジルとフランスの合作映画「黒いオルフェ」の劇中音楽をアントニオ・カルロス・ジョビンとルイス・ボンファが担当し、たくさんのボサノヴァの曲を使用した。
ルイス・ボンファが作曲した主題歌「カーニバルの朝」はマイナーのコード進行とメロディで哀愁溢れる曲調がクラシックを愛するヨーロッパ人の胸に刺さり、一躍世界にボサノヴァの存在を示すことになる。

その頃、そんなボサノヴァに影響されたアルバム「Jazz Samba」を1962年にリリースし大ヒットさせたアメリカのサックスプレイヤーであるスタンゲッツが、1964年にジョアンとジョビンを招いて作ったアルバム「ゲッツ/ジルベルト」が全米で大ヒットとなる。
ちなみにこの作品でジョアン・ジルベルトは当時の妻であったアストラッド・ジルベルトが2曲歌ったのがアストラッドの歌手デビューとなり、のちにボサノヴァやジャズを歌うシンガーとして活躍する。そのうちの1曲が「イパネマの娘」爆発的ヒット曲となり、今でも世界で最もカバーされた楽曲として、ビートルズのイエスタディと肩を並べている名曲となった。

ボサノヴァが与えた影響

全米での地位も獲得したボサノヴァはジャズと融合されさらに多様化されてゆき人気も衰退してゆき、全盛期に作られた曲たちはスタンダートとなり世界中で今も愛されているが、現在のブラジルにおいては日本における演歌のような古典的な位置となりボサノヴァを聴く若者は少ない。
日本では2000年前後からのカフェブームにより、店内にボサノヴァやクラブジャズを流すカフェが増え、現在も音楽好きの若者からの支持は熱い。
私も自身のバンドの結成初期に、アメリカのR&Bのボビーヘブの名曲「SUNNY」をELI GOULARTが現代風ボサノヴァにカバーした音源を参考にしたアレンジして、ライブでいつも演奏していた。

私が以前書いた「近年盛り上がりを見せている日本のジャズ、通称J-JAZZのムーブメント」の記事にも繋がってくるのだが、クラブジャズと呼ばれる音楽にも四つ打ちのクラブビートに乗せて、上に乗ってる楽器がボサノヴァアレンジという楽曲も非常に多く人気があるほど、今の日本の音楽シーンにおいて、ボサノヴァは欠かせない存在となっている。
ジャズだけでなく、ヒップホップ界においても、ボサノヴァを基礎とした楽曲が使用されることも多く、身近な日本のヒット曲でいうとRIP SLYMEの「楽園ベイベー」などもボサノヴァ的なアレンジが多用されている。

同じく日本のヒップホップユニットである私の大好きなSOFFetにもPrivate Beachという曲、ボサノヴァをベースとした楽曲があるが夏らしい名曲である。

南国のブラジル生まれのボサノヴァだけに、リズムを聞くだけで夏の爽快感が駆け巡る。
梅雨が長引き7月が中旬になっても涼しい夏となった2019年だが、これからどんどん暑くなる夏が、ボサノヴァを聴いて少しでも爽やかに夏になれば嬉しい。

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。