AUDEMARS PIGUET オーデマ ピゲ 八角形に引きこまれる魔力

“時計の谷”ヴァレ・ド・ジュウを代表する名門マニュファクチュール、オーデマ ピゲ。同社には複雑時計のほかに、もう一つの伝説的な腕時計がある。ラグジュアリー・スポーツウォッチの元祖にして究極「ロイヤル オーク」だ。ひとりの天才のスケッチに始まるその魅力をご紹介しよう。

20世紀後半、いや20世紀から21世紀の現在まで、時計デザインの世界で最高のデザイナーは誰か?  時計愛好家を自認する読者なら、間違いなくひとりの天才の名が頭に浮かんだことだろう。

1931年にスイス・ジュネーブに生まれ、2011年8月17日、惜しまれながら83歳で逝去した本名チャールズ・ジェラルド・ジェンタ、つまりジェラルド・ジェンタその人である。  スイスの名門時計ブランドに基本デザインを数多く提供。

また自らの時計ブランド「ジェラルド・ジェンタ」でも数々の名作ウォッチを世に送り出し、存命中から天才、鬼才として知られた伝説の人物。

何よりも驚くべきは、彼が手がけたデザインのほとんどが数十年を経た今もまったく鮮度を失わず魅力的で、進化・発展を遂げながら生き続けていることだ。

これから先、たとえ100年後でも腕時計が存在する限り、彼のデザインは今同様に輝きを少しも失うことなく、世界の人々の腕元を飾ることになるだろう。  その業績はあまりにも偉大だ。あまり語られることはないが、外観のデザインに留まらず時計技術という点でも、彼と彼の時計開発チームは1980年代から1990年代にかけて時計業界をリードする偉大な仕事を続々と成功させた。

たとえば、複雑時計の復興でも彼の製品は大きな役割を果たしている。彼のような天才は時計の世界に二度と現れることはないだろう。 1972年にファーストモデルが発表されたオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」は、懐中時計の時代から世紀を超えて世界を魅了するスイス最高峰のマニュファクチュールの機械式ムーブメントと、この時計史上最高の天才のデザインが美しく融合した傑作中の傑作。

高級時計の世界に「ラグジュアリー・スポーツウォッチ」という新ジャンルを創造した伝説の腕時計だ。  その最大の特徴は、完璧な幾何学的バランスで目にした人すべてを魅了する8角形のケースとベゼルだ。

東洋でも8は縁起の良い数とされるが、この特別な数の直線で構成される8角形には、人を飽きさせることなくいつまでも惹きつける不思議な力がある。その奥深さをジェンタは熟知していたのだろう。

ファーストモデルはシンプルな2針モデルだったが、現在ではクロノグラフや超複雑モデル、スケルトンモデル、さらに1993年に男性的で力強いデザインで人気の「ロイヤル オーク オフショア」へと発展。

ラグジュアリー・スポーツウォッチの原点にして究極として、あらゆる男性がいつかは必ず1本は手に入れたいスポーツウォッチとなっている。

オーデマ ピゲはモデル誕生40周年を迎えた2012年以降、積極的にこのコレクションの持つ伝統の再発見・改良と進化に力を注いできた。ここでご紹介する3本のクロノグラフは、まさにその伝統と改良、進化が凝縮された最新モデル。スポーティでエレガントでいつまでも飽きの来ない、まさに一生モノのクロノグラフだ。

数々の名門マニュファクチュールが本社を構え“複雑時計の谷”として時計愛好家に知られるヴァレ・ド・ジュウのル・ブラッシュで1875年、ジュール・オーデマとエドアール・ピゲのふたりが創業したオーデマ ピゲは、懐中時計の時代から現在も創業当時と同じ場所で「グランドコンプリカシオン」を筆頭に時計愛好家垂涎の超複雑モデルを開発・製造するなど、スイスの時計製作の伝統と最高峰の技術を持つ独立系マニュファクチュールとして時計業界の最高峰に君臨する。

その歴史は数々の時計史に残る伝説的な傑作で彩られているが、1986年に発表されたケース厚わずか5.5mmという超薄型トゥールビヨン腕時計はその傑作中の傑作のひとつ。

 

なお本社の隣にある創業当時からの建物の最上階は複雑時計工房兼プライベートミュージアムになっており、故ジェラルド・ジェンタが描いた「ロイヤル オーク」のデザインイラストと寸分違わぬ初出のロイヤルオークの写真

Photos by Noboru Kurimura
Text by Yasuhito Shibuya

2014年11月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)

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